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めくるたび
駅と駅舎を巡る鉄道の旅

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川原湯温泉駅

かわらゆおんせん

路線名
JR東日本 吾妻線
所在地
群馬県吾妻郡長野原町
開業日
1946(昭和21)年4月20日
訪問日:2006/09/09
川原湯温泉駅
吾妻(あがつま)川の渓谷沿いをしばらく走り、その谷がにわかに開けたところに、川原湯温泉駅はある。文字通り、川原湯温泉の最寄駅だが、この駅は「ダムの底に沈む駅」という実にありがたくないキャッチフレーズで呼ばれる。

現在建設中の八ッ場(やんば)ダムにより、あと数年もすればこの周辺は温泉街もろとも湖底に沈むことが決まっているのだ。このダムは巨大で、ダム湖の水面は駅舎の後ろに見える山の中腹あたりになるというのだが、にわかには信じられない。当初は住民たちの強硬な反対運動もあったが、1992年に地元と国の間で建設推進の協定が結ばれ、ついにダム建設が止まることはなかった。
川原湯温泉駅
駅舎内部は懐かしい雰囲気である。窓口では、JRから委託された駅員がいて切符を売っている。湯治客はもちろん、リュックを背負ったハイカーなども次々とやってきて、それほど広くない待合室の中はいつも賑やかだ。
川原湯温泉駅
古きよき木造駅舎の正しい姿、といった佇まいである。もっとも、あまり手を加えられていないのはそのうちなくなる駅だからかもしれない。駅開業は昭和21年であるが、ダムの計画が最初に発表されたのは昭和22年で、以来60余年もの間、いつ湖底に沈められてもおかしくないのだぞと脅され続けてきたのだ。そう思うとこの駅舎が不憫でならない。
川原湯温泉駅
瓦をのせたこれまた正統派の待合所が、周囲の風景にすっかりとけ込んでいる。この川原湯温泉駅を含む吾妻線の岩島〜長野原草津口間約10.4kmの区間は新線に切り替えられる。その約8割はトンネルになってしまうから、車窓風景も約8割減となるわけだ。
川原湯温泉駅
吾妻線の沿線にはじつに温泉が多い。吾妻渓谷は「関東の耶馬渓」と称されるほどの渓谷美を誇る。しかしここではその温泉も渓谷も、ダムによって沈められようとしているのだから何ともやり切れない。
川原湯温泉駅
ここから坂道を上っていくと、鄙びた雰囲気の温泉街がある。川原湯温泉はとても歴史ある温泉だそうで、今からおよそ800年前、源頼朝が発見したと伝えられているほどだ。しかしダム建設により、温泉街は山の上のほうに造成される代替地へ移転させられる。

「新しい代替地は、落葉広葉樹林の自然豊かな山が背後に控え、対岸の川原畑や周辺の山々のよく見渡せる眺望の良い地域であり、自然景観と調和した温泉街が形成されることになります」(八ッ場ダム工事事務所HP)

自然豊かな人工的温泉街というものにはまったく魅力を感じないのだが。
川原湯温泉駅
温泉街にあった案内板。くどいようだが、このイラストマップのうちほとんどの部分がダム湖となる。駅舎の絵が実際とだいぶ異なるのはご愛嬌。
川原湯温泉駅
しかし、このダム建設の目的は「利根川の洪水調節と首都圏水利用の安定」。八ッ場ダム工事事務所ホームページの事業の経緯を記したページでは、水没地から移転させられる住民たちのことを引き合いに出し、こう締めくくる。

「安定した暮らしが築かれるまでには、まだ長い道のりと苦労が必要です。八ッ場ダムの恩恵を受ける首都圏の人々に、ぜひそのことを心に留めていただきたいと思います。」

よくもまあぬけぬけと、という腹立たしい一文だが、首都圏に住む人間は、好むと好まざるとに関わらず、このダムの建設に加担させられているのだ。